症例13:大伏在静脈グラフト採取後の傷

80歳男性、糖尿病と慢性腎不全あり血液透析中。狭心症のため10月5日に冠動脈バイパス術を受けられました。冠動脈(心臓を養う大事な血管)のつまりか けた部位をバイパスして血を流す手術で、バイパス用の血管として両足の太い静脈(大伏在静脈)を切り取って使われました。心臓の経過は良好でしたが、足の 血管採取部の傷が1ヶ月半以上たっても良くならないため11月24日受診されました。

 

11月24日初診日の状態。右足の方が治りが不良でした。
傷全体をかさぶたが覆っており、一番下は傷が開ききって皮膚潰瘍を形成していました。
かさぶたは異物が食い込んでいるのと同じで、感染のもとになるとともに傷の治りも妨げます。
ふやかさないと取れないのでデュオアクティブETを貼り、潰瘍にはプラスモイストを当てました。
同じく11月24日初診日の左足。
治っている部位もありますが、数カ所かさぶたが貼り付いた状態でした。
こちらもまずはふやかすようにデュオアクティブETを貼りました。 

自宅ではデュオアクティブがふやけたらシャワーで洗って張り替えるようにしてもらいました。

11月28日の右足。
かさぶたがふやけて来ました。
入浴も許可していましたので2ヶ月ぶりにお風呂に入れたと喜ばれました。
かさぶたを除去しました。
ふやけて柔らかくなっており麻酔などせずに無理なく取れました。
かなり深くまで食い込んでいて、周囲が線維化していましたので取らなければいつまでも治らなかったでしょう。
また、皮下縫合の糸が露出していました。全経過中、出てきては除去し、計10本くらい除去しました。
11月28日の左足。
かさぶたを除去した状態です。 

右足は浸出液が多く、プラスモイストとズイコウパッド、左足はデュオアクティブETで治療しました。

12月7日の右足全景。
徐々に傷が小さくなっていっています。
12月7日の左足。
3箇所深い傷が治りません。糸も何度か除去しました。
1月5日の右足の皮膚潰瘍。
肉芽で埋まってきています。
プラスモイストで治療。
1月5日の右足。
かなり傷が小さくなりました。デュオアクティブETで治療します。
1月5日左足。
3箇所の深い小さな傷がふさがりません。
2月13日の右足の皮膚潰瘍。
かなり浅くなってもう一息の状態です。
プラスモイスト継続。
2月13日の右足。
こちらもあと一息で治りそうです。
デュオアクティブET継続。
2月13日の左足。
3箇所の点状の傷は不変ですが、上の傷から糸を除去しました。
3月28日の右足の皮膚潰瘍。
治癒していました!
3月28日の右足。
2箇所の点状の傷を除いてほぼ治癒していました。点状の傷の一方から残糸を除去しました。
3月28日の左足。
残念ながら不変でした。
5mm程度の深さで生活に大きな支障にはならないので経過観察していきます。
奥に糸などの異物が隠れている可能性が高いですが、切開してまで除去する必要はないと思われます。

大伏在静脈採取後の傷が治らない患者さんは以前にも治療したことがあります。もともと血流がそれほど良い部位ではなく、さらに静脈を取っ てしまうのでうっ血が起こりやすく、治りづらい傷のようです。気長に治療していく必要があります。特に糖尿病と腎不全という傷が治りにくい条件の患者さん ではなおさらです。この患者さんはそういった事情をよくご理解いただけて、長い治療に付き合っていただけました。

この患者さんのように、かさぶたが食い込んだような状態だと外からなにをしても治りことはありません。まずは異物であるかさぶたの除去が第一です。自身の 体内からの水分でふやけて融けていきますので、麻酔をして切ったりする必要はありません。また、治りが不自然に遅い場合は異物の存在を疑う必要がありま す。この患者さんでも治りが悪いところをピンセットで探ると糸が出てきました。