症例15:大人のすねの低温やけど

20代女性。11月3日に電気アンカで左の下腿を低温やけどされました。皮膚科に通われましたがまったく良くならず、皮膚移植が必要と言われたそうです。友人から湿潤治療が良いと聞き、検索して当院を受診されました。

12月10日初診時。
左のスネの内側に低温やけどがあります。1ヶ月以上たつのに壊死した皮膚がそのままです。周囲の皮膚も発赤しています。
エキザルベやフィブラストスプレーが使われていたそうです。
壊死組織に切れ目を入れて、ワセリン付きプラスモイストで覆いました。内部からの浸出液で壊死組織を柔らかくする目的です。
12月24日。
壊死組織が長く残存していたので下の組織が反応性に線維化(硬くなる)しており浸出液が少なめでなかなか壊死組織がとけません。
麻酔をして一気に切除する方法もありますが、相談の上、柔らかくなったところを少しずつ除去することにしました。
1月7日。
壊死組織の切れ目から肉芽組織が見えてきました。
壊死組織とその下の生きている組織の癒着が強く、少しずつ除去していきます。
1月14日。
壊死組織はかなり除去できましたが、固く癒着している部分は溶けるのを待ちます。
ピンク色の肉芽組織がだいぶ見えてきました。
2月4日。
壊死組織はほとんど無くなりましたが、硬い結合組織が出来ていて肉芽の成長の妨げになっています。
3月4日。
ほぼ平坦に肉芽で埋まりました。
前日に長く歩いたためかうっ血で黒っぽくなっています。
4月1日。
周りから皮膚がなかなか入り込んで来ません。
肉芽がやや盛り上がっているのが原因で、ステロイドの軟膏を塗って肉芽を平坦にします。
4月15日。
周辺から皮膚が張ってきました。
真ん中の方はまだ肉芽が盛り上がってるのでステロイド軟膏を続けてもらいます。
5月20日。
すべて皮膚に覆われました。
色素沈着と皮膚の下にしこりが残りましたが、徐々に目立たなくなっていきます。
ワセリンで保湿をしてもらいます。

低温やけどは深いところまでじっくりと熱が通るため、皮膚が深いところまで壊死します。壊死組織は異物が食い込んでいるのと同じですので、まずは壊死組織を取り除かないといつまでも治りません。
この方の場合は最初にかかった医師が1ヶ月間壊死組織をそのままにして表面的な処置をしていたため、異物である壊死組織に生体が反応して固くなってしま い、治るのに非常に時間がかかってしまいました。組織の再生を助けるはずのフィブラストスプレーという薬を壊死した組織にかけても生き返ることはありません。
時間はかかりましたが、痛い処置や皮膚移植せずに治癒できました。皮膚移植は必ず体の他の部分を傷つけることになりますので傷跡が2箇所になってしまいます。出来れば避けたいものです。