症例9:幼児の手のひらのやけど

1歳女児。12月18日にストーブの天板に触ってしまい左の手のひらをやけど。入院して治療の必要があり、植皮も必要かも、と近くの病院で言われて相談にこられました。
初診時はガッチリ固定した上に包帯でぐるぐる巻きのいわゆる「ドラえもんの手」状態でした。

12月20日の状態。
水疱は破れておらず感染兆候なし。怖がっていましたので無理に水疱膜はとらずにプラスモイストですっぽり覆って様子を見ました。
プラスモイストミトン。
指は自由に動かせます。動かせることが大事です。
12月21日。
水疱が破れてきましたので無理のない範囲でそっと除去しました。
白っぽいところはやや深い火傷になります。
浸出液がどんどんでますので家でもぬるま湯で流して付け替えをしてもらいます。
12月24日。
少しずつ水疱膜を除去して、ほぼ取り切った状態です。
白っぽいところはやや深い火傷ですが、赤みもでてきておりきれいに治りそうです。
この前日に38.5度の熱が出ましたが1日だけでおさまりました。
よく洗うようにするのがポイントです。
12月26日。
やけどの周辺からどんどん治ってきています。
白っぽいところはフィブリンという蛋白の膜が出来ています。取ったほうが良いらしいですが、痛みをともなうことがあるので自然に取れていくのを待ちました。
12月29日。
フィブリンの膜もうまく自然に取れていっています。
30日から休診でしたので家庭で処置を続けてもらいました。
1月5日。
休みの間にかなり良くなっていました。
家庭で上手に処置をしていただけたようです。
親指の肉芽が盛り上がりすぎたのでステロイド軟膏を塗るようにしました。
指は治っているので、手のひらだけプラスモイストで覆って、指先を使いやすいように切った手袋で固定するようにしました。
手は使いながら治さないといけません。
1月16日。
やけどして1ヶ月弱で、ほぼ治癒しました!
人差し指の深かったところに筋状の跡が残りましたが、手や指の動きには問題なく、しばらくこのまま経過を見ていけば良いでしょう。

患者さんは最初は怖がって泣いていましたが年が明ける頃にはノリノリでニコニコして受診していただけました。
1歳6ヶ月未満の手のひらのやけどは湿潤治療をしても瘢痕拘縮(痕が固くなって縮んだようになり指が伸ばせなくなる)が起きるとされています。今回も最初に十分ご説明をして治療を開始しました。幸いほとんど拘縮なく治癒しました。
以下は新しい創傷治療の夏井先生の説明です。

  1. 1歳6ヶ月未満の場合には,湿潤治療をしても瘢痕拘縮(指の伸展障害)が発生する
  2. 拘縮の程度にもよるが,上皮化が完了してから数ヶ月~数年で指を伸ばす手術が必要になる
  3. その手術はZ形成がメインとなり,必要であれば皮膚移植も行う。
  4. しかし,この場合の皮膚移植の面積は通常1~2センチ程度と小さい。
  5. 皮膚移植をしても指の伸展障害は必発で,結局その修正手術が必要になる。湿潤治療のメリットは全身麻酔の手術の回数を一回減らせ,採取皮膚の面積を最小限にできることにある。
  6. 手術は大学病院の形成外科で行うが,手術をきちんとしてあれば,術後に消毒されても害はなく,創面の乾燥も気にする必要はない。