症例62:ゲーベンにより悪化したやけど

42歳女性。9月23日にお湯で左腕をやけどされ、近くの皮膚科から大きな病院に紹介されました。そこではゲーベンクリームとガーゼによる治療を受け、石鹸でよく洗うように言われたとのことです。軟膏が変更になったらすごく痛くなり、キズパワーパッドを貼って10月18日に当院を受診されました。

初診の10月18日。

左前腕に広範囲にやけどがありました。やけどして1ヶ月近く立つのに黄色い壊死組織が広範に残っていました。

最初はせいぜい深い2度のやけどだったのが、ゲーベンとガーゼにより悪化して3度熱傷に近い状態になっていました。

毛穴が生き残っていれば3週間、残ってなければ2ヶ月かかると説明。ワセリンつきプラスモイストで処置し、自宅でもお湯だけで流して付け替えるように説明しました。

10月25日。

壊死組織はかなり溶けてなくなり、肉芽が見えてきました。処置を継続してもらいます。

痒みが出てきていたので、お湯で流す回数をふやしてもらいました。

11月5日。

肉芽が増えて平らになったところが出てきました。経過良好です。痒みもなくなりました。

11月18日。

大部分肉芽が平らになり、周辺から上皮化が進んできています。

11月27日。

順調に上皮化していっていますが、一部肉芽が盛り上がってきています。盛り上がりすぎるとそこで上皮化が止まりますので、盛り上がったところにはリンデロンV軟膏を塗ってもらいます。しばらく塗っていれば平坦になります。

12月6日。

一気に上皮化が進みました。ところどころまだ治っていないところがあります。

12月17日。

ほとんど上皮化しました。あと3箇所島状に残っているだけです。

12月27日。

完全に上皮化しました。肘の方に軽度の肥厚性瘢痕が生じています。

肥厚性瘢痕の拡大。ドレニゾンテープを開始しました。
1月28日。

肘近くの肥厚性瘢痕は目立たなくなってきましたが、触るとわかる状態です。

肥厚性瘢痕の拡大。色などはわかりにくくなっています。

やけどのあと全体も今後半年くらいで目立たなくなっていくと思われます。

旧態依然とした誤った治療行為で重症化したやけどです。経過から毛穴まで障害が及んでいたと思われます。2度のやけどが医原性に3度になったと言えるでしょう。幸いごく軽度の肥厚性瘢痕のみ残して治癒しました。また、特筆すべきは再生した皮膚の感覚は正常でした。

初診時の状態だと元の病院に通い続けていたら皮膚移植になっていた可能性が高いです。入院して高額の医療費がかかり、皮膚を採取した部分にも傷が残り、移植された皮膚は近くがない状態になります。当院に通院されたのは提示した9回だけです。入院せず、自分で処置して10回も通わずに治っています。