症例81「乳児の熱湯による顎と腕のやけど」

11ヶ月の男児。10月31日に熱い飲み物が入ったカップを倒して顔、左腕、頸部、背部をやけどされました。救命センターに入院し治療を受けられ、入院中にネットで湿潤治療のことを知り、11月20日退院後意見を聞きたいと受診されました。

紹介状を頂いており、入院中はサトウザルベ、ゲーベン、ロコイドなどで治療し、現在は過剰肉芽にロコイド、ほかはアクトシン軟膏とメロリンガーゼで処置中とのことでした。ご両親に湿潤治療についてご説明し、当院での治療を希望されましたので紹介元にはその旨お返事をしました。

11月20日の下顎。

軽度の過剰肉芽を認めます。

11月20日の左肩~上腕。

肩はあまり問題ありませんが、上腕には高度の過剰肉芽を認めました。

11月20日の上腕。

盛り上がっています。

上腕の過剰肉芽の治療としてのステロイド軟膏はロコイドでは力価不足で、リンデロンV軟膏に変更、ワセリン付きプラスモイストで被覆しました。毎日お湯で流して付け替えをしてもらいました。

11月27日の下顎。

やけどの面積は半分くらいになっていますが残った部分が少し盛り上がってきていました。親御さんが気づいてすでにリンデロンを開始されていましたので、もう数日継続してもらいました。

11月27日の左肩~上腕。

肩はあと1cmくらいまで改善していました。

11月27日の上腕。

肉芽は平坦になっており、半分くらい上皮化していました。リンデロンは終了です。

12月4日の下顎。

あと5mmくらいまで治ってました。

12月4日の左肩~上腕。

肩は治っています。

12月4日の上腕。

順調に治っています。

12月11日の下顎。

治癒していますが、やけどの痕が盛り上がってきて肥厚性瘢痕になりつつあります。

12月11日の左肩。

肩は問題ありません。

12月11日の左上腕。

上の方は停滞気味、下の方は小さくなっていますがやや停滞気味です。治ったところが肥厚性瘢痕になりつつあります。

12月18日の下顎。

軽度の肥厚性瘢痕になっています。

12月18日の左上腕。

治癒していました。まだ薄い皮膚なのでしばらく保護が必要です。

軽度の肥厚性瘢痕になっていますが、関節にかかっておらず半年程度で自然に消えていくことも多いので経過観察してもらうことになりました。

深い2度以上のやけどは壊死してなくなってしまった真皮や皮下組織を肉芽(ピンク色の組織)が埋めて、その上を表皮細胞が覆って治癒します。肉芽が元気に増殖して欠損した組織を埋めてくれるのは必須なのですが、元気がありすぎて盛り上がってしまうと表皮細胞が表面を覆えなくなり治癒が止まってしまいます。ステロイド軟膏を塗ると肉芽が平坦になりますので、やけどの面を観察して適切な期間の使用が必要です。

このお子さんは初診含めて5回の通院、1ヶ月で治癒されました。自宅での簡単な処置で治るのも湿潤治療のメリットです。