起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)

起立性調節障害は難治性疾患です。当院では学会の指針通りでは治らないこの疾患に対して異なるアプローチで治療を行っています。
病院におまかせでは決して良くならない病気ですので、以下を熟読しご納得の上の受診をお願いいたします。
受診は月・火・木・金の午後2時に1日1名の予約制とさせていただきます。

受診の際に下記のチェックシートにご記入をお願いしますが、あらかじめ記入して持参していただくと時間短縮になります。
起立性調節障害チェックシート

まずは日本小児心身医学会の考え方をご紹介します

日本小児心身医学会ホームページより引用しています。血圧の異常が病気の本体であるとの考えがあります。

日本小児心身医学会での定義

  • たちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、動悸、頭痛などの症状を伴い、思春期に好発する自律神経機能不全の一つです。
  • 過去には思春期の一時的な生理的変化であり身体的、社会的に予後は良いとされていましたが、近年の研究によって重症ODでは自律神経による循環調節(とくに上半身、脳への血流低下)が障害され日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校状態やひきこもりを起こし、学校生活やその後の社会復帰に大きな支障となることが明らかになりました。
  • 発症の早期から重症度に応じた適切な治療と家庭生活や学校生活における環境調整を行い、適正な対応を行うことが不可欠です。

疫学(病気の頻度や男女差、年齢など)

有病率 軽症例を含めると、小学生の約5%、中学生の約10%。重症は約1%。不登校の約3-4割にODを併存する。
性差 男:女 1:1.5~2
好発年齢 10~16歳
遺伝・家族性 約半数に遺伝傾向を認める

主な症状

  • 立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、失神や失神様症状、頭痛など。症状は午前中に強く午後には軽減する傾向があります。
  • 症状は立位や座位で増強し、臥位にて軽減します。
  • 夜になると元気になり、スマホやテレビを楽しむことができるようになります。しかし重症では臥位でも倦怠感が強く起き上がれないこともあります。
  • 夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。

診断

1)立ちくらみ、失神、気分不良、朝起床困難、頭痛、腹痛、動悸、午前中に調子が悪く午後に回復する、食欲不振、車酔い、顔色が悪いなどのうち、3つ以上、あるいは2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害を疑います。

2)鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患など、基礎疾患を除外します。

3)新起立試験を実施し、以下のサブタイプを判定します。
(1)起立直後性低血圧(軽症型、重症型)
(2)体位性頻脈症候群
(3)血管迷走神経性失神
(4)遷延性起立性低血圧
(近年、脳血流低下型、高反応型など新しいサブタイプが報告されているが、診断のためには特殊な装置を必要とする。)

4)検査結果と日常生活状況の両面から重症度を判定する。

5)「心身症としてのOD」チェックリストを行い、心理社会的関与を評価する。

標準的な治療

  • 坐位や臥位から起立するときには、頭位を下げてゆっくり起立する。
  • 静止状態の起立保持は、1-2分以上続けない。短時間での起立でも足をクロスする。
  • 水分摂取は1日1.5-2リットル、塩分を多めにとる。
  • 毎日30分程度の歩行を行い、筋力低下を防ぐ。
  • 眠くなくても就床が遅くならないようにする。
  • 学校関係者にODの理解を深めてもらい、OD児の受け入れ態勢を整える。
  • 本人と保護者に対して、「ODは身体疾患である、「根性」や気持ちの持ちようだけでは治らない」と理解を促すことが重要です。
  • 非薬物療法を行ったうえで処方する(ミドドリン塩酸塩など)。薬物療法だけでは効果は少ない。
  • 子どもの心理的ストレスを軽減することが最も重要です。

経過

日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3ヶ月で改善します。学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2〜3年以上を要します。

当院での考え方

日本小児心身医学会の疾患概念への疑問

日本小児心身医学会の疾患の捉え方は、あまりに血圧を重視しすぎと思われます。起立時の血圧の低下がこの病気の本体であれば、朝は具合が悪く夜調子が良くなることの説明が付きません。また、起立時の血圧低下で朝ベッドで横になっているときにも呼びかけに応えられなかったりする理由が不明です。
そのため血圧にばかり着目して水分や塩分を増やしたり昇圧薬などを処方したりしていますが効果が少ないことは学会も認めています。また、抗うつ薬を処方する施設もありますが、これはかなり根拠が薄い治療と言わざるを得ません。そもそも抑うつの症状がないか乏しく、あったとしても二次的に生じたものでこの病気そのものに効果があるとは考えづらいです。

当院では起立性調節障害という疾患概念自体が血圧によってなされる診断である時点で誤りだと考えています。血圧にとらわれていては治療はできません。事実、当院を受診される患者さんは複数の医療機関で診断・治療を受けて改善しなかった方が半数以上です。

症状からの疾患のとらえ直し

この疾患の特徴を再度見てみましょう。患者さんが最も困っているのはおそらく次の一点です。

  • 朝起きられず、起きても頭痛や吐気があり思うように動けない。学校にも行けない。

そして周囲から怠けや夜更かしのせいにされてしまう特徴が次の一点です。

  • 夕方から元気になり、夕食は普通に食べられ、遊んだりもできるが、夜はなかなか寝付けない。

この二点が起立性調節障害のほぼ全てと考えます。血圧変化などはおまけの症状なのです。
症状を俯瞰してみると、1日のリズムが後ろにずれているだけなのが見えてきます。

起立性調節障害は体内時計の不調というのが当院の結論です。


体内時計が4~6時間後ろにずれていると考えればすべて説明が付きます。みなさんがいつもより4時間早起きしてすぐ食事して支度して会社に行けと言われたらどうでしょうか。なかなか起き上がれず、食事するどころではなく、頭痛がしてもおかしくありません。我々医師は当直中に午前3時などに起こされて診察処置にあたりますが、その時の状態そのものが起立性調節障害の症状と思われます。

睡眠医学の専門家の医師も起立性調節障害と概日リズム睡眠・覚醒障害がかなりオーバラップする疾患同士である、もしくは同じ疾患であるとの見解を示しています。睡眠リズム障害の中でも、睡眠時間が後にずれる睡眠相後退症候群と呼ばれる病態です。
「朝起きられない」を治療し若者の将来を守る
その症状、OD(起立性調節障害)ではなく、睡眠リズム障害では?

疫学からみた疾患の原因

それではなぜ、体内時計の調整がうまくいかなくなるのでしょうか?

漢方の世界では朝が苦手で夜元気なのをフクロウ型体質といい、対極の早起きだが夜はすぐ眠たくなるのをヒバリ型体質とよんでいます。

体内時計の偏りのあるフクロウ型・ヒバリ型体質は洋の東西を問わず存在します。この体質は決して夜更かしなどが原因ではなく、体内時計の遺伝子に違いがあることが報告されています。
Genome-wide association analyses of chronotype in 697,828 individuals provides insights into circadian rhythms
疫学で半数に家族性・遺伝性を認めるのもこの考えを支持します。

次は発症の年齢と性差です。
起立性調節障害の好発年齢は10~16歳です。性差は1対2くらいで女性が多いです。
概ね中学生~高1くらいの二次性徴期に発症が最も多いのですが、なぜ小学生の頃は起きられたのに急に起きられなくなったのでしょうか?また、なぜ女性の方が多いのでしょうか?

二次性徴に伴い体内時計のズレを修正できなくなったと考えるのが妥当でしょう。
ではなぜ二次性徴で体内時計の調整ができなくなるのでしょうか?

可能性の一つは性ホルモンです。二次性徴期には性ホルモンの急激な分泌増加があります。ただし、男女で分泌されるホルモンが異なることもあり、直接的な原因ではないと考えています。何より治療として性ホルモンの作用を邪魔しまっては甚大な影響があります。

もう一つの可能性は女性では月経の開始、男性では急速な身長の増加です。月経は鉄とタンパク質の急速な喪失をもたらし、身長の増加は鉄とタンパク質の需要が激増して相対的な栄養失調状態になります。月経による鉄・蛋白喪失のほうが成長による不足よりより影響が大きいため、女性の方が患者数が多いと考えられます。男性患者は食が細い人が多く、身長は伸びたがそれにみあった体重増加がなく痩せすぎている場合がほとんどです。この点も栄養が重要であることの傍証であると考えます。

当院では、起立性調節障害はもともとフクロウ型の遺伝子を持ったお子さんが月経開始や急速な成長で鉄・タンパク質が不足し栄養失調となることで体内時計の調節に障害をきたした状態と考えます。

当院での起立性調節障害の治療

初診は問診などに時間がかかるため午後の予約受診をお願いしています

基本となる治療

初診時に保険診療で鉄欠乏の評価や内科的疾患の除外のための採血を行ったうえで、足りなくなっている栄養を補うことを治療の中心としています。この栄養補助の考え方は広島の藤川医師の方法に従って行っています。
精神科医こてつ名誉院長のブログ

沖縄のじねんこどもクリニック院長今西康次医師も藤川医師の方法で起立性調節障害を治療しており書籍を出されています。
朝、起きられない病~起立性調節障害と栄養の関係

栄養改善による効果は月単位で徐々に出てきますが、これだけだと良くなるまで6ヶ月程度かかる場合が多いのが欠点です。受験生など早く改善が必要な場合は睡眠医学の薬を併用すると早く症状が改善します。栄養改善も併用し続け、いずれ薬をやめていけるのが理想です。

栄養状態の改善は治療に不可欠で必ず取り組んでいただきます。
具体的には、お菓子やジュースを減らして、食事は低糖質高蛋白食にしてもらいます。主食を減らして可能な限り肉や卵をたくさん食べてもらいますが、食が細くて肉や卵をあまり食べられない方が多いです。十分な高蛋白食ができないと改善しづらいため工夫が必要です。
その上でさらにプロテインを1日2回飲んでもらいます。食事の蛋白だけでは改善には不十分です。
プロテインを1日2回しっかり飲めたらナイアシンアミドというサプリを開始します。1日1~2カプセルから始めて2~3日毎に増量し6カプセル(朝2,夜4)まで増やします。
鉄欠乏があれば鉄剤も処方します。処方薬の鉄剤で吐き気があるような場合は最も吐き気が起こりにくい鉄サプリをご紹介します。プロテインもサプリも安価なものをご紹介しますのでご自身で購入されて結構です。合わせて月5~6千円です。
きちんと継続できれば月単位で改善していきます。この方法は根本的な病気の治療になりますので継続できれば再発もしません。

睡眠学会の治療
睡眠医学領域の薬は即効性があります。体内時計のずれを修正して早く眠れるようにする薬と、睡眠時間を短縮させて早く起きられるようにする薬があります。
ロゼレム(ラメルテオン):体内時計に働きかける薬で1錠だと強すぎて逆効果で1/8錠以下が適量とされています。入眠したい4~6時間前の服用が望ましく夕食後に服用しますが、1/8錠でも眠気が強い場合はさらに減量します。
デエビゴ:依存性のない睡眠導入薬で入眠したい時間の1時間前に服用します。初日から効果があります。
エビリファイ(アリピプラゾール):長く寝すぎる過眠に対して少量投与(0.5~1mg)で改善作用があります。朝服用します。10日以上連用することで徐々に効果が出て早く目が覚めるようになります。

エビリファイの作用について最近さらに解明が進み、体内時計の中枢に直接作用し体内時計が昼夜の明暗サイクルに同調しやすくなるということがわかってきました。ロゼレムとは別の作用で体内時計を調節するということで併用すればより効果的と思われます。
Front Neurosci(2023; 17: 1201137)

補助的な治療
漢方の治療

久留米大学医療センター精神科の恵紙教授のフクロウ外来で用いられている漢方薬(苓桂朮甘湯+補中益気湯)を併用すると症状が緩和できる場合があり、睡眠障害は軽症だが倦怠感が強い場合に試してもらいます。

長期的な計画と家族の補助の重要性

睡眠医学の薬は即効性があり週単位で改善します。栄養改善のみでもきちんと治療継続できれば月単位で改善します。先月より学校に行ける日が増えていれば順調と考えてください。いずれの薬もプロテイン+ナイアシンアミド(+鉄)により体内時計の調整力が戻れば中止していきます。
エビリファイなどへの反応が良いお子さんだと1~2ヶ月でほぼ正常に起きられるようになりますが、ここで急に薬をやめてしまうとまた1~2ヶ月で元の状態に戻ってしまいます。しっかり栄養改善を行い、半年ほど状態が安定したら薬を減らしていくのが安全です。薬をやめたあとも成人して体内時計の調節力が自然に上がるまでは栄養状態を維持できるように努力すべきです。

ご家族の理解がないと患者である子供さんは追い詰められていきます。岡山県教育委員会作成のパンフレットが疾患の原因の部分以外は大変参考になりますので必ずお読みください。
起立性調節障害(OD)対応ガイドライン 
上記が見られない場合はこちらを御覧ください。起立性調節障害対応ガイドライン

高蛋白食、プロテイン、ナイアシンアミド、鉄剤、各種治療薬をお子さん自身で管理することは困難な場合が多く、ご家族が我慢強くセッティングして飲むところまで確認しないとうまく治療できないことも多いです。

起立性調節障害は一朝一夕で治る病気ではありません。一番つらいのは学校に行って友達とも会いたいのに行けない患者さん本人です。家庭・学校ともにこの疾患についてよく理解し、子供さんを最大限サポートしてあげることがこの疾患の治療では最重要と言えるかもしれません。

受診は月・火・木・金の午後2時に1日1名の予約制とさせていただきます。

受診の際に下記のチェックシートにご記入をお願いしますが、あらかじめ記入して持参していただくと時間短縮になります。
起立性調節障害チェックシート

当院での1年間の治療成績

2023年5月からエビリファイなどによる治療を開始し1年経過した時点での治療成績です。治療開始後3ヶ月間での改善の度合いをグラフにしました。

寛解:普通に登校できる
不完全寛解:改善はあるが不十分で遅刻や欠席することがある
不変または悪化:治療前と変わらないか悪化した
ドロップアウト:1~2回で受診中断した

悪化した1名の方は内服や栄養改善がはとんどできなかった方です。不完全寛解の患者さんも内服や栄養改善がうまくできない方が多かったです。やはりきちんと薬を飲む時間を守り栄養改善への取り組みを行った方の改善率が良い結果でした。

不完全寛解の患者さんでもう一つ問題に感じたのが二次障害です。これは学校に行けない期間が長引いたことで本人の自信や友人関係などが損なわれてしまった状態で、治療へのモチベーションも上がらず朝起きられるようになっても不登校が続いてしまいます。できるだけ早く治療開始する事や、友人関係が切れてしまわないようにしてあげることが重要と思われます。夕方から部活だけでも参加が許されるなら積極的に参加したほうが良いと思われます。

受診継続された場合はほとんどの方が改善されることがわかりましたが、1~2回の受診で来なくなる方が31%にのぼり、継続的に受診していただけるような方策を考える必要性があります。今のところ丁寧な説明を行い、あとは本人や家族の意志に任せるしかないと考えています。ドロップアウトの中にはナルコレプシーなど他の病気が疑われ大学病院などに紹介した患者さんも含まれます。