65歳男性。20年来の糖尿病でインスリン治療中。2019年4月から当院に通院されていました。糖質制限で内服・インスリンともに減量できていました。
2020年11月に左足の小指の付け根が化膿して整形外科で治療を受けておられ、治ったと言われたが痛みがあるとのことで3月に相談されました。
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3月21日
左足の小指の付け根に皮膚潰瘍を認めました。周囲の皮膚が分厚く肥厚していて潰瘍の傷の部分に表皮の細胞が入っていけない状態で難治性です。消毒などの不適切な治療が行われたときによく見られる所見です。
毎日お湯で洗ってプラスモイストを当ててもらいました。 |
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8月29日。
「傷がふさがったと思って喜んでいたら数日前から痛みがある」とのことで、潰瘍があったところに膿が溜まっていました。
難治性の傷でよくある「傷は治っていないが表面だけふさがって治ったように見える」現象で、内部に海が溜まりやすいです。 |
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表面を除去すると膿が流出しました。洗浄してプラスモイストを当てました。抗生剤も内服してもらいました。 |
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9月3日。
痛みは軽くなりましたが指の色調が不良で、局所麻酔の上内部を洗浄したところ指の方に向かって瘻孔(深い傷)ができていました。瘻孔内は化膿しやすく排膿しやすいようにナイロンの糸を入れてあります。ドレナージといいます。
化膿した傷を見たらとにかく膿を外に出す努力が必要です。 |
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9月8日。
皮膚の色が悪かったところはすでに皮下に膿が溜まっていたようで、壊死になっていました。
入れられるだけナイロンの糸を入れて排膿します。抗生剤も継続しましたが、通常この状態だと切断が勧められます。
採血結果がそれほど悪くなく、ドレナージを徹底すればまだコントロール可能と考えました。 |
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9月9日。
8日よりは腫れなどが改善しています。 |
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指の反対側からも排膿がありナイロン糸を挿入しました。内部で外側とつながっている可能性が高いです。
指の動脈は外側と内側を通っており、両方が感染で閉塞すると指が壊死してしまいますのでかなり危険な状態でした。 |
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9月14日。
感染はかなりコントロールされて傷の周りの血流も良好です。なんとか一山越えた印象です。
皮下に感染が広がったあとは写真のように一皮むけます。 |
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9月16日。
徐々に落ち着いてきています。プラスチック針で内部を洗浄していたところ外側から内側の傷に貫通しているところが見つかったため、ナイロン糸を通して輪にしています。 |
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これだと絶対に自然に抜けないドレーンになります。深いところのドレナージをしてくれる、まさに命綱のような存在です。
抗生剤はここまでで終了しています。 |
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9月23日。
かなり改善してきました。 |
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10月13日。
壊死組織などを除去したところ、ポッカリと大きめの組織欠損になりました。感染さえコントロールできて血流があればこれくらいの欠損は自然に埋まります。 |
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困ったことに隣の第4趾にも皮膚潰瘍・皮下膿瘍ができていました。原因ははっきりしませんが、第5趾から皮下を通って感染が波及したのかもしれません。 |
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10月17日。
第4趾の外側が広範囲に壊死しています。 |
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10月27日。
第5趾の方はゆっくり改善中です。 |
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第4趾も感染はなくなり大きめの皮膚潰瘍になっています。 |
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11月12日。
第5趾の方は肉芽が上がってきて順調に改善しています。 |
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第4趾も肉芽に覆われてきています。 |
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12月8日。
第5趾の傷は殆ど埋まっています。狭くて深い瘻孔が残っているのでなかなかドレナージはやめられません。 |
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第4趾の皮膚潰瘍も小さくなっています。 |
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2021年1月9日。
第5趾の方は輪状のナイロン糸のみ残してあります。一方の傷は完全に治っています。 |
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第4趾もかなり治りましたが、傷面が瘢痕化してしまった部分の治りが悪いです。 |
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1月18日。
第5趾のナイロンの輪も抜去しました。再発しないことを祈りながら経過観察します。 |
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第4趾は難治な状態で治癒が止まってしまいました。 |
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3月6日。
第5趾の傷は長く落ち着いていましたが、また内部に膿が溜まってしまいました。内部が治りきらないまま表面が閉じてしまうとだめです。 |
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鏡面を除去して排膿しました。またしばらくドレナージします。 |
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第4趾はあまり変化がありません。 |
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5月15日。
第5趾はドレーン継続中です。
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第4趾はくぼんだところに感染きたしやすくこちらもナイロン糸を入れて経過を見ました。 |
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7月24日。
第5趾はドレーンさえ入っていれば問題ありません。 |
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第4趾は治癒と考えて良さそうです。 |
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10月2日。
第5趾は9月にドレーン挿入を終了しましたが再発はありません。2~3mmくぼんだ状態で上皮化しているようです。 |
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第4趾も瘢痕化した傷跡にはなりましたが再発なく経過しています。 |
糖尿病患者さんは感染を起こしやすく動脈硬化で血流が悪くなるため、足のちょっとした傷からあっという間に感染が広がって切断になってしまうことがあります。この患者さんの9月8日の状態だとほぼ足の切断を勧められます。9月3日の状態でも切断になりかねません。しかし、きちんとドレナージを行い、血行が維持されていれば人体というのは驚くほどの回復力を持っています。
多くの切断例ではこの症例のように徹底的なドレナージは行われず、表面の消毒と抗生剤投与のみで悪化していき切断に至っていると思われます。
もちろんすべての糖尿病性壊疽が切断を回避できるわけではなく、動脈硬化で血流が乏しい場合などはいかんともしがたいことはあります。
つかもと内科 院長
平成5年鹿児島大学卒業
総合内科専門医、腎臓専門医、透析専門医