症例89「交通事故による前腕の筋膜露出皮膚欠損」

18歳男性。7月11日に交通事故で右前腕に大きな皮膚欠損創を受傷されました。7月11日から22日まで陰圧閉鎖療法を受け、7月21日実家のある福岡に帰省。24日まで自宅でゲンタシン軟膏+ガーゼで治療後大学病院形成外科受診しプロスタンディン軟膏+ガーゼ治療に変更、皮膚移植か時間をかけて保存的に治すかと説明を受け、7月27日2当院を受診されました。
左手中骨の骨折もあり、そちらは整形外科で手術予定でした。

7月27日。

右前腕外側はアスファルトでえぐられて広範囲な皮膚欠損になっています。深いところは筋膜が見えています。

陰圧閉鎖療法期間中は消毒や有害な外用薬が使われることがないのである程度肉芽が上がっていますが、その後のガーゼ治療、さらにプロスタンディン軟膏の害により張りのなくでこぼこしたいわゆる「しょぼくれ肉芽」になってしまっています。

同じく7月27日。

右前腕外側の縫合された傷も離開してしまっています。

当院での治療方法を説明し、ご同意いただけたためワセリン付きズイコウパッドでの治療を開始しました。

7月28日。

たった一晩で肉芽に張りが出て凸凹がなくなっていることがわかります。

痛みもなくなったとのことです。

おなじく7月28日。

離開した傷の中が昨日よりきれいなピンク色になっていることがわかります。

7月30日。

肉芽に覆われている面積が増えています。

同じく7月30日。

周辺から上皮化していっています。

8月1日。

筋膜の上もうっすら肉芽が覆い始めています。

同じく8月1日。

中心部以外は上皮化しています。

この処置の後整形外科に入院して右中手骨骨折の手術を受けられました。

8月4日。

退院してすぐ受診されました。入院中も自分で処置していたそうです。

筋膜はすべて肉芽に覆われており、経過良好です。

同じく8月4日。

外側の離開した傷はほとんど治癒していました。

8月19日。

新型コロナにかかって受診間隔が開きました。

周辺の肉芽が盛り上がって過剰肉芽になっていました。平坦になるまでリンデロン軟膏を塗ってもらいます。

同じく8月19日。

外側の傷は完全に治癒しました。

8月24日。

傷が小さくなってきています。肘部は上皮化していますが、曲げ伸ばししながら治したので運動障害はありません。

周辺の過剰肉芽はまだありリンデロン軟膏を継続してもらいました。

8月27日。

創面は更に縮小傾向です。

同じく8月27日。

外側の離開した傷の痕が肥厚性瘢痕になってきました。

9月2日。

創面はどんどん小さくなっています。リンデロン軟膏は終了にしました。

9月9日。

順調に改善しています。

この後学校の都合でしばらく受診間隔が開きました。

9月26日。

傷は線状に残るのみです。肉芽が盛り上がったのでリンデロンを再開していたそうです。

プラスモイスト被覆に変更し、ハイドロコロイド包帯も試してもらうよう説明しました。

10月11日。

薄皮が張ったようになっていたが水疱化して破れてしまったとのことでした。肉芽としっかり接合していな状態で上皮が張ってしまうことがあり、そういった上皮は取れてしまいます。

10月24日。

上皮化完成し治癒していました。まだ薄い皮膚なのであと1週間は保護が必要です。その後も乾燥しやすくワセリンやスクワランで保湿するよう指示しました。

肥厚性瘢痕形成しており、今後のドレニゾンテープ治療について説明しました。運動の障害はありません。

同じく10月24日。

早く治った肘部ですが、やはり乾燥しやすく保湿や保護が必要です。

11月7日。

しっかりとした皮膚になっています。これは特筆すべきことですが、治った皮膚にはしっかりと感覚があります。当初予定されてい分層皮膚移植だと知覚は戻りません。

外側の傷とともにドレニゾンテープを開始しました。

11月28日。

ドレニゾンテープを上手に使っています。効果も実感できているそうです。

同じく11月28日。

外側の傷もしばらく使えば落ち着くでしょう。

筋膜が露出し筋肉が透けて見える状態でも湿潤治療で治っていきます。上の日付が全通院日です。ここまで大きく深い傷がワセリンとズイコウパッドだけ使って外来通院で治ってしまうとなると、皮膚移植の真の適応というのは非常に狭いのではないかとおもいます。また、この患者さんではせっかく陰圧閉鎖療法で改善した傷がプロスタンディン軟膏やガーゼで悪化しかけており、前医のままの治療を継続していたらと思うと恐ろしくなります。