症例16:親指のひょう疽・皮下膿瘍

50代男性。4月13日仕事中に左手親指の先と爪の一部をカッターで切り落としてしまい、現場近くの整形外科で縫合、消毒とガーゼで治療されましたが痛み が出て4日目で抜糸されたそうです。その後自宅近くの整形外科で、ラップで覆う治療を受けたそうですが痛みが強くて夜も眠れないほどとのことで4月25日 当院を受診されました。

4月25日初診時。
指先の傷から肉芽が大きく盛り上がっており、親指全体に強い痛みを感じていました。
肉芽の内部に膿が溜まっており、表面麻酔をした上で少し切開を行い膿を出しました。
抗生剤を処方し、プラスモイストで覆いました。
4月26日。
切開したところから膿が出てはいましたが不十分で、指の腹の部分の痛みが強く、浅いところだけでなく指の中の方に感染が及んだひょう疽という状態と思われました。
他の病気で血が止まりにくくなる薬を3種類服用されており、当院での深いところまでの切開は危険と考え、大きな病院の形成外科へご紹介しました。
4月28日。
4月26日に病院の形成外科で追加切開を受け、以後の処置は当院で行うようにとのことでした。
排膿はしっかり出来てきたので痛みは軽くなったそうです。
同じく4月28日。
大きな肉芽が突出しているのがよく分かる写真です。
今後は肉芽の中をよく洗って、乾燥させないように処置していきます。
痛みは残存しており、抗生剤も最大量を投与しました。L-ケフレックスを4g投与しました。
5月1日。
かなり赤みも引いてきました。まだ指の痛みは残っており、抗生剤を継続しました。
5月9日。
肉芽は小さくなり痛みもなくなりました。
乾燥傾向になっており、切開した開口部が乾燥したかさぶたで塞がれた状態になっています。
このままにしておくと奥に浸出液が溜まって再度化膿してしまうことがあります。
同じく5月9日後。
かさぶたを取り除いて内部を洗浄しました。
やはり少し汚い液が溜まっていました。
ワセリンをたっぷり塗り込んでからプラスモイストで覆います。この後も開口部がどんどん小さくなって行ったので閉じないように工夫をしました。
5月19日。
奥から肉が上がってきて傷がふさがりました。ほぼ治癒の状態です。
同じく5月19日。
盛り上がっていた肉芽も自然に平坦になりました。
同じく5月19日。
爪が伸びればほとんど怪我したとはわからなくなるでしょう。

指先をカッターやスライサーで切り落としてしまう事故はよくあります。出血は多いですが、止血できれば後は湿潤治療で早くきれいに治り、ほとんどあとは残りません。
今回の患者さんは最初に不適切な縫合を受けた上に、その後診た2件目の医師も感染に対して痛み止めを出すだけで排膿などの処置をせず、強い痛みで大変苦しい思いをされました。
指の腹の部分は構造が複雑で、そこに感染が起きた場合をひょう疽といい、治りにくいとされています。典型的には指の腹の部分をざっくり大きく切らないといけないのですが、流石に内科開業医ではそこまでの処置は難しいため専門である形成外科(ココ重要です。整形外科ではありません)へご紹介しました。幸い、肉芽の部分を追加切開していただいただけで良くなりました。
最初から湿潤治療できていれば、10日程度で治ったと思われますが、こじれてしまってかなり長い治療期間になってしまいました。